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2012年3月 1日 (木)

息子の卒業式

 遅番をすませ、深夜に浪合を出た。夜の高速を走り、できるだけ南にくだった。

 尾張一宮のPAで車を止め、運転席を倒し、寝袋にもぐりこみ、用意しておいたカップ酒をあおった。

 明日は、いや、もう今日か-。息子の高校卒業式である。

 そうだと知ったのはつい先日だ。仕事はあったが、すぐに行く決意をした。あっというまの高校生活だった。なにもしてやれないまま、卒業式を迎えた。せめて卒業式くらい、行きたいと思った。この三年間に思いをめぐらせた。
 
 だが、疲れた脳髄はアルコールの力に麻痺し、ただ感傷的になるだけだった。

 どのくらい眠っただろうか。しっかり眠ったようでもあるし、ろくに眠っていないようでもある。背中がやけに固い。車で寝るとか、もう無茶なのだろうか。

 リュックからにぎりめしをとりだし、ほおばる。キーをまわし、アクセルを踏む。

 朝の名神の車はさみしいくらいよく流れた。

 実家についたのは、卒業式の1時間くらい前だ。長男の面倒をよく見てくれた私の母親に、「今日が卒業式です。3年間お世話になりました。」と礼をした。仏壇にも線香を上げ、同じ言葉を言った。

 嫁はもう着替えていた。私も顔をあらい、着替えた。ふたりで北嵯峨高校にむかった。

 北嵯峨高校は、大覚寺のとなりにある。特別風土保存地区にあり、京都市内の学校なのに、本当に自然に恵まれている。自然だけでない。大覚寺をはじめ、清涼寺、化野念仏寺、二尊院など嵯峨野の歴史的文化にいつでも触れられる豊かさは比類だ。

 卒業生が、自分の子も通わせたくなる学校、卒業生が教師として再び戻ってきたくなる学校、そんな学校だと校長が胸を張っていたが、そうだろうと私も思う。

 大きな高校で、卒業生は400人強。体育館は卒業生と保護者でいっぱいだ。在校生はクラス代表が列席しているのみ。

 全員の名前が読み上げられた。わが息子は、全10組の10組に所属。五十音順の名簿であるから、読み上げられたのは最後の最後だった。

 後姿が見えた。いくらか、がっしりしたか。少年から、青年へかわるんだと、後姿が教えてくれた。

 仰げばとおとしを歌った。吹奏楽部の生演奏が気持ちいい。

 式がおわった。息子と声をかわすことなく、私たちは校門を出た。

 早春の嵯峨野の風景がひろがっている。わずかに、土のにおいがした。

 嫁は、腕を組んできた。照れくさかったが、そのまま歩き出した。

 息子はきっと、このあとサッカー部のOB戦があったり、打ち上げがあったりするのだろう。高一の次男は、別の高校の同じ催しに出かけている。私は浪合に帰らなければならない。

 新丸太町通のスイス料理屋がある角で、嫁とわかれた。

 アクセルを踏む。ひとつ、区切りを見届けた。あいつの笑顔が見たかったなあ。

 

 

 その日の夜中、長男から
「ありがとう」
と一言書いたメールが届いた。

 十分だ。

 

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