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2008年12月21日 (日)

聖戦5

 <連作モノです。聖戦1 は こちら 、 聖戦2 は こちら 、 聖戦3は こちら 、聖戦4は こちら です。 >

 近鉄バファローズはただただ義務的に守備についた。仰木彬監督はベンチ中央に立ったまま。ナインは涙をこぼしながら10回裏の仕事をつとめた。
 マウンドの加藤は先頭の丸山一仁に四球を与えるが、続くビル・マドロックは捕邪飛に討ち取る。驚いたことに仰木監督、ここで投手の交代をする。優勝への采配を続けていた彼が、優勝の望みを断ち切られたのに、それでも負けないための采配を振るう。そのことに私は背筋が伸びる思いがした。
 加藤に代わってマウンドに上がった木下文信は、続く打者ふたりを連続三振に切ってとり、10回の裏が、そしてこの試合が終わった。ロッテオリオンズ対近鉄バファローズ第26回戦、4-4時間切れ引き分け。試合時間4時間12分。その時時計は午後10時56分をさしていた。
 川崎球場は敵地だったが、猛牛軍団は三塁側とレフトスタンドに陣取った応援団にところへ足を運び、帽をとって深々と頭を下げた。「おまえらようやったぞ」「おまえら最高じゃあ」そんなファンの声に、ナインは顔をぐちゃぐちゃにしながら手を振りこたえた。
 同じ頃、埼玉の所沢球場では、この試合の行方を見終わったライオンズナインが森祇晶監督の胴上げをしていた。

チーム 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
バファローズ 0 0 0 0 0 1 2 1 0 0 4
オリオンズ 0 1 0 0 0 0 2 1 0 0 4
  1. (延長10回時間切れ引き分け)
  2. バファローズ – 高柳、吉井、阿波野、加藤哲、木下 - 山下、梨田
  3. オリオンズ– 園川、荘、仁科、関 - 袴田 

    本塁打:バファローズ – 吹石2号(7回園川)、真喜志3号(7回園川)、ブライアント34号(8回園)     オリオンズ – マドロック17号(2回高柳)、岡部11号(7回高柳)、高沢14号(8回阿波野)

  • 最終順位(西武ライオンズと近鉄バファローズのゲーム差は0、西武が優勝)
    • 西武ライオンズ 73勝51敗6分 勝率.589 全日程終了
    • 近鉄バファローズ 74勝52敗4分 勝率.587 全日程終了

 試合終了後、バファローズの面々は東京都港区のホテルに戻った。そこで行われるはずだった優勝祝賀会は、試合の結果を受けて撤去作業が行われていた。しかし仰木監督と球団の計らいで「残念会」と名まえを変え、深夜の宴が始まった。男たちは浴びるように酒を飲み、尽きぬ涙を流した。
 この試合が引退試合となったオグリビーは、あまりの悔しさに「なんで日本には引き分けなどという制度があるんだ」と幾度もこぼした。
 主力のひとりだったが直前のケガで試合に出られなかった金村義明は、
「すいません、すいません」
と仰木監督に泣きじゃくりながら何度も頭を下げた。この宴会でただひとり涙を流さなかった彼は、
「カネ、打ち上げやぞ」
と静かに金村の頭をなで、一年の労をねぎらった。

 10回表の攻撃でゲッツーに討ち取られた羽田。猛牛の男たちは彼を手拍子で呼び出し、彼にひとこと言う機会をつくってやった。ベテラン羽田は照れくさそうに、でも深く頭をさげ、
「今日は、スマン」
と言った。男たちは肩を組み、幾度も近鉄バファローズの歌を歌った。

 歴史に残る試合だった。翌日はどの新聞もこの試合が一面だと思った。しかし、そうはならなかった。

 熱戦が繰り広げられたその日、近鉄バファローズとともに西日本でパ・リーグを支えてきた名門・阪急ブレーブスが、オリエント・リース社に身売りされた。この記事に一面を奪われた新聞が幾つかあった。他紙も一面ではないにしろこの事件は大きく扱われた。その分試合の記事に割くスペースは減っていた。信じられなかった。有藤監督の9分間も大いなる受難だが、翌日のマスコミの扱いもこの試合に対する冒涜だと思えたし、受難だった。しかしこれらの受難が、この試合を「聖戦」の高みに押し上げたことも間違いない。イエスの物語が聖書となったその理由を思い返してみるといい。
 それにしてもオリエントリース社、球団買収発表のなんとしらけるタイミングか。後にイチローを生み出す親会社のタイミングとは思えない。もっとも、イチローが世に登場するには、仰木彬監督のオリックス移籍を待たなければならないが。それまでに彼はこの近鉄バファローズを強豪に育て上げ、さらに野茂英雄という超弩級のトルネード投手を世に出さなければならない。

 いくつか後日談を紹介する。

 バファローズの敗戦によりリーグ優勝を得た西武ライオンズの主将石毛宏典は「これで(日本シリーズに)負けたら近鉄に申し訳ない」とコメントした。その通り日本シリーズで落合博満を擁する中日ドラゴンズを4勝1敗で下した際には、主砲清原和博が「これで近鉄に顔向けできる」とコメントした。

 翌1989年、オリックスブレーブス、西武ライオンズ、近鉄バファローズの三つ巴の激戦を、今度は近鉄バファローズが制し、パ・リーグ優勝を決めた。日本シリーズでバファローズはジャイアンツ相手に3連勝するがその後4連敗、ほぼ手中にしていた日本一を逃してしまう。この時「巨人はロッテより弱い」と挑発発言をしたのが「投球練習はいらないから」と最後まで試合を諦めなかった加藤哲郎である。

 仰木彬監督が日本一になるのは1996年。オリックスブルーウェーブ(1991年に「ブレーブス」から改称)を率いた際となる。就任1年目の1994年にイチローを発掘して210安打の日本記録を樹立させ、1995年には阪神・淡路大震災で大きな痛手を受けたものの「がんばろうKOBE」を合言葉にリーグ制覇。しかしこの年は野村ヤクルトに1勝4敗と大敗。翌1996年に再びリーグ優勝し、「メークドラマ」でセ・リーグを制した長嶋ジャイアンツを下して念願を果たした。なおこの年、仰木チルドレンのひとり野茂英雄が、メジャーの舞台でノーヒットノーランを達成している。

 仰木彬監督は1988年日本シリーズ後の清原のコメント(「これで近鉄に顔向けできる」)に「なんて男気のあるやつだ」と感動したらしく、清原の晩年、「お前の最後の花道はオレがつくってやる」と自身がシニアアドバイザーを勤めるオリックスバファローズ(2004年に「ブルーウェーブ」から改称)への移籍を実現させた。

 -その2ヵ月後、仰木監督はこの世を去った。

(おわり)

(追)
 仰木彬氏が亡くなられたのは2005年12月15日。私はこの日にアップした「聖戦4」で完結するつもりでいたが、しかしそれは叶わなかった。書きたいことが多すぎて、まとめきれなかった。
 西鉄ライオンズの系譜で西日本のプロ野球を支え、野茂やイチローを見出した仰木彬。
 豪放なチームカラーの西鉄の中にいて、「豊田と仰木だけは遊びに制限をかけなイカン」といわれた放蕩ぶりも魅力なら、指導者として「きちんと結果を出せば遊びも結構」というプロフェッショナルな姿勢を崩さなかったところも魅力だった。
 指導者となってからもキャンプ地にいわゆる「彼の女」がいることはめずらしくなく、まちがって選手が口説いてしまい、仰木が「いいかげんにせい」と怒った話も楽しくなる。
 長嶋の感性や野村の論理性とはまた違う、仰木の冷徹な勝負師としての姿勢と時折見せる溢れる人情との葛藤に共感した。
 1988年10月19日。私は長野市のアパートで友達とこの試合を見届けた。いつも冷静だった友達が顔を上気させて興奮していたのを覚えている。テレビに映るバファローズの小さな指揮官は、荒くれ戦士たちの中で存在感たっぷりだった。
 彼とわずかでも同時代を生きることができ、よかったと思っている。
 その感謝の念が、この話を書かせたと思う。

 ありがとう、仰木彬さん。

(追々)
本ブログでも紹介したが、世界文化社より「仰木彬 パ・リーグ魂」という本が出版されている。聖戦後の残念会で仰木監督に泣きながら「すいません」と繰り返した金村義明氏が執筆した本だ。仰木彬監督に興味を抱かれた方がいらしたら、一読をおすすめする。
 執筆した金村氏も、きっと仰木彬監督の命日を意識してこの本を上梓されたのだろう。この本の初版発行は2006年12月である。

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コメント

前に、聖戦で監督ったら有藤…云々って書いたけど、
なるほどなるほど、
仰木監督のルーツみたいなのが、ここ(聖戦)にはありますね。
なんか、いまさらながらに感動。

☆「仰木彬 パリーグ魂」発注しよっかな☆

投稿: おおくぼ | 2008年12月22日 (月) 04時50分

昨日にこにこ動画でこの試合のドキュメンタリーをみつけました。

やー、、、やっぱすごいゲームだったなあと思いましたよ。

投稿: くずてつ | 2008年12月23日 (火) 20時30分

よくぞ発見してくれました!
ニコニコ動画って…コメント表示しないようにできないのかな?
コメントがツライからあそこを観る気がしない。

☆YouTubeで探してみよっと☆

投稿: おおくぼ | 2008年12月23日 (火) 21時00分

ニコニコ動画、コメント出ないようにできるよ。画面下にコメントアイコンがあって、それクリックすればOK。オレもあそこのコメントがつらくっていつも消して見ている。
10.19 最終戦 って検索でいいんじゃないかな。

投稿: くずてつ | 2008年12月24日 (水) 19時20分

そりゃありがたい。
ここ一両日忙しいんだけど…引けたら、没頭します(笑)。

☆やっぱ「This is プロ野球!」を観なきゃ☆

投稿: おおくぼ | 2008年12月25日 (木) 08時49分

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