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2008年12月10日 (水)

聖戦3

 <連作モノです。聖戦1 は こちら 、 聖戦2 は こちら です。 >

 近鉄バファローズが大逆転優勝を決める。多くの野球ファンがそう思った。ナインもそれを信じてプレイしていただろう。しかし野球はそんな予定調和を、時として無残に打ち砕く。7回裏、オリオンズの岡部明一がソロ本塁打を放ち、さらに代わった吉井から西村徳文がタイムリーヒットを放って同点に追いつくのだ。

 近鉄バファローズに9連敗中のオリオンズ。これ以上負けられない、目の前で優勝の胴上げなど見たくない・・・そんな男達の意地が、チームに今までにない粘りを生み出している。第一試合で結果を出せなかった吉井のメンタルにも問題があったろうが、しかし今シーズンのいつものオリオンズなら、あっさり負け試合になっていたはずだ。

 しかし、猛牛打線の勢いも止まらない。8回表、主砲、ラルフ・ブライアントが34号ソロ本塁打を放つ。4-3。いよいよ真打が一発を放った。
 ブライアントは、実はここにいるべき選手ではなかった。彼の実父が危篤の状態だったのだ。ほとんどの外国籍選手は、いや日本の選手だって、家族に危険な状態があれば試合を欠場し、家族のもとに駆けつける。しかし優勝にむかって突き進むバファローズをこの男は見捨てることができなかった。その彼が、本塁打で勝ち越し点を刻んだ。これで決まった、今度こそ決まりだ。その裏からはエース阿波野がマウンドに登る。胴上げ投手は阿波野だ-それでいいんと違う?そう思ったのは私だけではないはずだ。

 しかし、伏兵がいた。

 このゲーム、優勝争いとは違うところで、ひとりの男が戦っていた。ロッテオリオンズの主砲、高沢秀昭である。彼は厘差で阪急ブレーブスの松永浩美と首位打者を争っていた。オリオンズはすでにこのシーズン最下位が決まっていた。だから高沢はゲームを休んで打率を下げないという戦略に出てもおかしくなかった。しかし、有藤監督は高沢を二試合ともスタメンで使った。「高沢を使うのになんの躊躇もなかった。プロである以上、タイトルは自分の力で獲れ。そう思っていた。」後に有藤監督はそう語っている。有藤道世、実直で頑固な男だ。
 試合に出場した以上、安打を放たないと打率は下がる。高沢にとって、首位打者のタイトルは初めてだし、当然自分のものにしたいところだ。8回の裏、そんな高沢に打順がまわる。
 先頭の愛甲猛はサードゴロ。バファローズ優勝まで残り6つとなっていたアウトカウントがひとつ減る。

 続いて、高沢。
 阿波野は高沢に対して2球スクリューボールを投げる。高沢はまったくタイミングがあわず空振りふたつ。カウントはツースリーとなっていた。
 さあ、勝負。
 バファローズバッテリーはここで三度スクリューを選択。阿波野、高沢がかすりもしなかったスクリューボールを投げる。
 この組み立てをベンチで見ていたベテラン梨田は、「スクリューは読まれていた。イチかバチかで高沢は狙っていた。ならば2球見せたそのボールじゃなくて、まっすぐでOKかな、と思った」と後に語っている。
 しかし勝負の球として選択したのはストレートではなく、スクリュー。
 「いくらか高めに入ってしまった」というスクリューを、高沢がこれしかないというタイミングですくい上げる。打球は一直線にレフトスタンドへ。本塁打なのに静まり返る球場。一瞬後、オリオンズ応援団だけが歓声をあげた。

 4-4。どうなる。いや、すごいぞこの試合。日本中の野球ファンが興奮と、それから野球というスポーツがあることの幸運を感じたに違いない。

 9回表バファローズの攻撃。二死後、大石第二郎がツーベースを放つ。猛牛はくじけていない。続く新井宏昌が左バッターボックスに入る。プロ14年目、ベテラン好打者だ。1987年には首位打者を獲得、落合博満も一目置く打撃の職人である。
 その新井が、彼独特の、ヘッドを滑らせるようなスイングでアウトコースの球を弾き返す。
火を噴くような打球が三塁線に飛ぶ。タイムリーだ!そう思った。
 しかしサード水上善雄がよこっとびでボールを掴み、すばやく起き上がって一塁送球、アウト。この時毎日放送の安部アナが叫んだ「THIS IS プロ野球~!」の言葉は、プロ野球中継史上、最高に視聴者の気持ちとシンクロした名言だったと私は思う。
 守備では長嶋茂雄を彷彿させると言われた水上が、その真骨頂をこの場面で見せた。誰もが最高のプレイをこの試合に捧げた。そうさせる力が、この試合には確かにあったのだ。

聖戦4へつづく

 

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