« 中村俊輔が佐藤寿人を褒めてくれた! | トップページ | ボルシチ! »

2008年11月21日 (金)

聖戦1

・・・これは1991年に私が書いたモノを加筆修正した作文です。


 1988年10月19日、水曜日。

 神奈川県川崎市の川崎球場では、激戦が繰り広げられていた。
 近鉄バファローズ対ロッテオリオンズ、最終戦を含むダブルヘッダーである。週末のゲームならいざしらず、いつもなら閑古鳥が鳴いてもおかしくないカードだ。しかし今日は違う。土の香りがする、さびれた感じが懐かしい球場は、史上最も熱い、「筋書きのないドラマ」を展開していた。

 平日開催にもかかわらず、この小さな球場に3万人もの観客が集まり、入りきれなかった者は近辺のビルの窓やテラスからこの激戦の行方を見守っていた。

 これほどの盛り上がりには理由がある。この2試合の結果によって、この年のパシフィック・リーグの覇者が決まるのだ。
 一時は首位ライオンズに8ゲームもの差をつけられたバファローズだが、9月16日から猛烈な快進撃を開始。とにかく負けない。一気にライオンズとの差を縮めてきた。
 10月7日から12日間で13連戦というハードスケジュールさえ、猛牛(バファローズ=猛牛軍団)は戦いぬいた。13連戦中にはライオンズ戦2連敗や絶対エース阿波野で星を落とすなど手痛い敗戦もあり、その度に息の根を止められたかに見えた。しかし猛牛は死なない。血を流し、涙を流し、それでも立ち上がり、前を睨み、走り続けた。そして、10月19日を迎えた時点で、リーグ優勝までマジック2というところまでこぎついたのだ。
 満身創痍の猛牛は、崇高ですらある勢いに乗って川崎球場に乗り込んできた。このダブルヘッダーに2連勝すれば、近鉄バファローズの優勝だ。しかし、ひとつでも勝てなければ、優勝はすでに全日程を終了している西武ライオンズに持っていかれる。引き分けも許されない。
 一方のオリオンズは、一昨年抜けた落合博満の穴を埋められず苦心のシーズンを送ってきた。しかも前日までに対バファローズ戦8連敗を喫している。屈辱的な数字だ。プロとして、これ以上負けるわけにはいかない。
 オリオンズには高沢秀昭という外野手がいるのだが、彼は厘差で首位打者を争いながらかろうじてトップの座を守っていた。日本野球の場合、こうしたケースだと打率を落とさないために試合に出場しないことが多い。しかし状況はそれを許さない。オリオンズ有藤監督は2試合とも高沢の名前をスターティングメンバーに並べた。すべてを賭けて白星を奪おうと、オリオンズはバファローズを迎え撃つ。

 1戦目、オリオンズはシーズン奪三振王の小川が九つの三振を奪う好投を演じていた。一方のバファローズはそのシーズンすでに10勝をあげている先発小野からリリーフエース吉井へとつないでいた。
 8回終了時点で3-3。互角の戦いが展開されている。
 ふつうのゲームなら延長戦も考えるところだが、ダブルヘッダーの場合は違う。パ・リーグ協定事項第41条の2(当時)により、「ダブルヘッダーの第一試合は9回をもって打ち切り」となっているのだ。優勝がかかっているバファローズはなにがなんでも得点をもぎとらなければならない。

 9回表。近鉄バファローズは一死後、プロ18年目の淡口憲治がライトフェンスの金網を直撃するツーベースヒットを放つ。後がない攻撃なので、すかさず代走・俊足佐藤純一と交代。
 オリオンズも動く。好投の小川からリリーフエース、牛島へスイッチだ。
 しかし連敗を止めたいオリオンズを、優勝したいバファローズの勢いが上回る。牛島の投じた二球目を鈴木貴久がライト前に弾き返す。二塁ランナーの佐藤は猛然と本塁を目指すが、しかしオリオンズ右翼手阿部からキャッチャー袴田への送球が早く、佐藤は三-本間で挟まれまさかの憤死。観客席から歓声と悲鳴と溜息が怒涛のごとく押し寄せた。
 打った鈴木は二塁に到達したものの、しかし二死。マウンドには、牛島。対する猛牛打線、すでに下位。

 ここで仰木監督、代打にベテラン梨田を送った。

 「梨田しか、いないのか」
 失礼ながら、私は思った。名選手であることは間違いないが、すでに往年の力はない。私は決してバファローズファンではなかったが、管理野球で覇権を握ろうとしていた西武ライオンズに一泡吹かせてほしいという気持ちは、正直あった。近鉄バファローズ監督・仰木彬監督の「解放野球、快楽野球」に勝利の栄冠をつかんで欲しい、管理・抑圧よザマアミロ、と言わせて欲しかったのだ。だから、もっと豪打の、すごいヤツを代打に出して欲しいと思った。チャーリー・マニエルくらい、ベンチにいないのか!?

 もちろんのこと、いるわけない。

 さて、梨田対牛島。

 カウント、ノーストライク・ワンボール。牛島がセットポジションから2球目を投じる。ストレートだ。梨田はこの球を強振、しかしあきらかに詰まった打球だ。ところが飛んだ方向がおもしろい。ショートとレフト・センターのちょうど真ん中あたり。二死なので当然鈴木は走り出している。梨田の打球は誰も捕れずポテンヒットとなる。
 センター森田がボールを握ってバックホーム。ランナー鈴木は決して俊足ではなく、タイミングは際どい。沸騰する川崎球場。
 本塁に突入する鈴木は内側にまわりこみ、捕手袴田のタッチをかいくぐる。

「セーフ!」

 土壇場で、近鉄バファローズの勝ち越しだ。

聖戦2へつづく




  
 
 

|

« 中村俊輔が佐藤寿人を褒めてくれた! | トップページ | ボルシチ! »

コメント

これ、『  』に載せたやつだっけ?
しばらくぶりなので、じっくり読み込んでしまいました。
つづき…早く出してください(笑)。

☆歴史に残るダブルヘッダーでしたね☆

投稿: おおくぼ | 2008年11月22日 (土) 16時20分

これは、某団体(笑)機関紙「ランプ」に掲載してたやつです。当時は小説風に書いてました。ある野球好きの家族がこの試合をラジオやテレビで観戦してる、って設定で。
実は「異人の球譜」(別の某団体の機関紙にムリヤリ寄稿してたやつ)を書き直したいなと思っていたんですが、それより先にこちらが目についたもので。
ま、山村留学らしくはぜんぜんないのですが、私のバックボーンの紹介の一部ってことで(^-^;

投稿: くずてつ | 2008年11月23日 (日) 10時45分

「異人の球譜」はAlcoholLAMPの2号から4号に書いてもらいました。ありがとね。
ちなみにAlcoholLAMP復刊プロジェクトは進んでいます。来年は14年ぶりの5号を出すつもりです。

☆「つもり」だからね。(←逃げ腰)☆

投稿: おおくぼ | 2008年11月24日 (月) 16時45分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/66200/25534394

この記事へのトラックバック一覧です: 聖戦1:

« 中村俊輔が佐藤寿人を褒めてくれた! | トップページ | ボルシチ! »