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2007年10月25日 (木)

元祖むらさき観戦記-8

7.意気地    ジェフユナイテッド市原戦(3対2 勝ち点3)   

 私はしばらくへこんでいた。母からも「黒部があかんな」という電話がきた。下の息子は黒部のTシャツを着ようとせず、妹の角田のTシャツを着て学校に行くようになった。寒くなってきたので、長袖の上から着てゆく。
 あのPKがとれていたら・・・。一体何度同じことを考えたことか。同点なら相手が得る勝ち点は1になり、こちらも勝ち点1が貰える。これなら両チームの勝ち点の差はゲーム前とかわらなくなる。サンガにとって、この状況をつくることが最低限のミッションではなかったか?それをもう掴みかけようとした所で、勝ち点は全て滑り落ちた。そして相手に勝ち点3がわたった。
 それにしても、と思う。黒部光昭の受けた衝撃はいかほどのものなのか。

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 黒部は上品なストライカーだ、と私は思う。それは彼のプレイからも感じるし、何より試合後のコメントを聞くに付け、痛感する。
 ここでいう「上品」に、気迫がないとか、闘志が前面に出てこないとか、そういうニュアンスはまったくない。
 黒部は左右の足でシュートが打てるし、ヘディングの打点も高い。ポストプレイもできればミドルシュートも打てる。日本代表監督のジーコが言うとおり、オールマイティなフォワードだ。同じチームのキーパー平井は、「クロさんのシュートはコースがわかっていてもとれない」と何かのインタビューで答えていたのを見たことがある。「カズさんや黒崎さんのシュートを受けてきた僕がいうのだから・・・」と平井は付け加えていた。サンガにおける存在感は抜群だ。
 断言してもいいが、黒部は人を悪くいうことなど金輪際ない男だろう。彼が左右の足でシュートが打てるのも、決して身長が高いわけでもないのにヘディングの打点が高いのも、すべて味方のためだ。どんなクロスでもゴールに突き刺してやるから、という彼の決意の現れに他ならない。クロスの精度が悪い、と言われ続けているサンガだが、黒部はいつでも、何度でも前線の壁を越えようとダッシュやジャンプを繰り返していた。
 また審判への抗議や敵へのファールも少ない。大分戦のPKの際、相手FWの吉田がしつこくオフェンスラインを気にして大声をあげ続け黒部の集中力をそごうとした行為に対しても、その結果キックを許す笛がなかなか吹かれなかったことに対しても、黒部は何も批判めいたことをいわなかった。試合後にインタビュアーが水を向けても、だ。ただ自分の責任です、と潔よい。そこが、上品だというのだ。
 そんな黒部だからこそ、あの場面でのPK失敗はこたえている筈だ。上品な男は、常に責任を自分にまわす。「大事な場面で、おれは何をやってるんだ」「チームに迷惑をかけた」そんな気持ちに押し潰されそうになっていたおしても、まるで不思議ではない。
 しかし黒部光昭はサンガのエースだ。次の試合にも出なければならない。

 次の試合は11月8日、西京極でジェフ市原を迎える。
 サンガはジェフに対して、この節までに4勝9敗と大きく負け越している。
 大分戦に破れた京都は勝ち点20のまま。得失点差で最下位である。この時点で、いわゆる自力残留の可能性はなくなっていた。サンガが残り試合全て勝っても、ライバルチームが負けなければ降格してしまうということだ。次の対戦相手が苦手だろうとなんだろうと、勝つよりない。そんな厳しい状況に立たされているサンガである。
 市原戦の見所は、ずばり、黒部の出来だ。我が目で見たい。しかし当日は、皮肉なことに京都にこそ家族全員いるものの、仕事の関係でスタンドに応援にはいけない。南信州のこどもと京都のこどもの交流登山の日なのである。私が仕掛けた仕事なので、抜けることは絶対に許されない。

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 この日の登山は愛宕山である。愛宕山は京都市の北西に位置する。眺望がいい山とは言い難いが、ビューポイントはいくつかある。とりわけ7合目あたりから見下ろす京都市はすばらしい。こどもたちに「京都タワーが見えるかな?」などといいながら、ついつい西京極の照明灯を探している自分がおかしかった。登山中、すれ違った人のうち何人かは京都パープルサンガのタオルを頭にまいたり首にまいたりしていた。その度、こどもたちが、「ねえ、今の人・・・」と教えてくれた。さすがご当地、と私もうれしかった。

 登山は午後3時半に下山の予定で、ゲームは午後3時スタート。終わりの会を済ませて京都のこどもたちを見送ると、早速携帯で試合の模様をチェックする。しかし電波状況が悪く、接続できない。「京都市ともあろうものが携帯もつながらないところがあるのか、けしからん」と悪態をつきながら、妻が運転するマイクロバスに乗り込む私。おとなしく市街に出るのを待ち、再びアクセス開始。ゲームは後半も中盤にさしかかっている時間帯だ。祈るような気持ちでサイトのページを繰る。
「京都2対市原0」
という字が目に飛び込んだ。
「すげえ」
思わず声をあげる私。
「どうしたの?」
紫魂の妻が問う。バス車中には私に感化されてすでにサンガファンになってしまった子もいるので、何事かと色めき立つ。
「京都勝ってるよ!2対0だ」
「すげええ!!」
車中、騒然。
「誰が点とったの?」
誰かが聞く。私も気になっていたので、その情報を得ようと携帯を操作していた所だ。該当するサイトが開いてゆく。
「黒部光昭24分(アシスト 斉藤大介) 黒部光昭60分(アシスト ビジュ)」
という字が現れる。私は鳥肌が立った。なんて男だ!クロベ!
 「うららー、うららー、京都のクロベ、うららー、うららー、ダダンダダンダンダン・・・」
車中に黒部の応援歌が響く。
「すごいね、黒部」
妻がうっとりしたような声でいう。バスは丸太町通りを東に進んでいる。ネオンがまぶしくなる時間帯だ。
 堀川丸太町で右折し、二条城の前を通り過ぎようとした時、また試合経過を確認してみた。3対0になっている。黒部のハットトリックか、とすぐに詳細表示のページへ。
「ねえねえ、どうなの?」
妻がハンドルを握りながら気にする。画面には松井大輔という名前が出ていた。しかしアシストは黒部!ファンタジスタ松井とエース黒部のホットラインかよ!それが見たかったんだ!!
 それにしても、黒部光昭。さすがエースと呼ばれる男である。この活躍で前節のPK失敗を帳消しにできるわけではないが、彼の意気地が感動的ではないか。
 スポーツ観戦は、やはりひとつのゲームだけ抽出して見たのでは面白みが半減だ。そのゲームで、いったい選手に何が起こっているのか、そのプロセスを知ることが、観戦をより豊かなものにする。私はそのことを再確認した。
 バスは五条通りを清水寺の方へ向かってゆく。
「こういう試合を、生で見たいわよね」
と妻。
「まったくだなあ」
私がうなずく。今夜は東山区の泉涌寺の塔頭のひとつ、戒光寺に宿泊する。ゲームの残り時間は5分ほどだ。まず、ひっくりかえされることはないだろう。私の仕事も今日の所は順調だし、まさに至福のひとときだ。
 戒光寺に入る前に、銭湯で汗を流すことになっていた。バスが銭湯の前で止まる前に、試合終了の情報を得ようと携帯を見る。見て、私は驚いた。試合結果のスコアが3対2になっているではないか。86分と89分に、林という選手に立て続けにゴールを奪われている。
 終了間際の失点はサッカーにはよくある。しかし、このゲームはシャットアウトしておきたかった。シャットアウトして初めて、悪い流れを切ることができるのではないかと感じていた。
 次節の対戦相手は、ベガルタ仙台である。残留争い直接対決第2ラウンドだ。攻守ともに不安があるサンガにとって、このゲームで3点取ることができた事実はすばらしい。しかし終了間際に2点取られたことはおおいに不満であり、不安である。
 油断であろうか。
 昨シーズン年間5位、天皇杯優勝のチームが残留争いをしているのには様々な理由があるだろう。そのひとつに、「俺達は強い」という油断が心のどこかにあったのではないか。若いチームだけに、心の歯車が狂うと修正までに時間がかかる。
 後日ビデオで見たインタビューでも、松井大輔は2失点について不満を顕わにしていた。今節、神戸も大分も仙台もそろって敗れたため、サンガはこの勝利で再び自力残留の可能性を得た。しかし京都パープルサンガは不気味な不安感に包まれたまま、アウェイでベガルタ仙台と激突する。

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